夕立の日に
Written by 旅人
ざーーーーー
祐一「……はぁ〜」
放課後、祐一は外を見ながら大きなため息を吐(つ)いた。
祐一「傘……持ってきてねぇよ」
あぁ、今朝は快晴だったのに、なぜ神は私に試練をお与えになるんだバカヤロウ!
心の中で信じてもいない神さまに向かって毒吐(つ)いてみる。
ざぁーーーーー
………心なしかさっきよりも強くなったような気がするが、それは気のせい、寝雪のせい、と言う事にしておこう。
祐一「……はぁ、ったく何で掃除なんか……ブツブツ……ゴミ捨てまで……グチグチ……」
とりあえず愚痴ってみたものの、空から滝のように降り注ぐ雨は一向に止む気配を見せない。
祐一「とにかく、これじゃ遅くなっちまうし」
雨の弱まった隙にずぶ濡れ覚悟でダッシュで家まで帰ろうかと、準備体操を始めたとき
??「………祐一」
横の方から声が聞こえた。
声の主を確認すべく、声のした方に顔を向けると
祐一「舞じゃないか。どうしたんだ、こんなところで?」
舞 「それはこっちの台詞」
祐一「俺は今までずっと掃除してたんだ。ゴミ捨てまでやらされてさ、こんな遅くなっちまった。で、舞は?」
舞 「……私は進路の事。相談してた」
祐一「そうか、進路かぁ。3年は今の時期大変だもんな。」
舞は大学に行くのかな?就職かな?そういえば、舞は獣医になりたいって聞いた事があったような……?
でも、頭良いのかな?でも、あの佐祐理さんが居るし……。
舞 「……祐一」
舞が大学に行くのか就職するのかについて考えていると、舞が声をかけてきた。
祐一「どうした、舞?」
舞 「祐一、帰らないの?」
俺がずっと動かないから不思議に思ったのだろう。
祐一「あぁ、帰る。帰るぞ」
そう言って出入口から出ようとしたが
ざーーーーーー
………忘れてた。ってか、強さ変わってないし。
舞 「……祐一?」
祐一「あぁ、悪い。俺、傘持ってきてないんだ」
だから雨が弱まるまで帰れない。そんなニュアンスを混ぜつつ傘を持ってきてない事を伝える。
舞 「………」
すると、無言になる舞。
祐一「………舞?」
不安になって、声をかけてみる。
舞 「…………」
やっぱり無言。
祐一「…………え、え〜と、ま「祐一!」は、はぃ?」
珍しく舞が大きな声を出した。……と言っても、普段と大きな差はないが。
舞 「祐一……私のに……入ってく」
祐一「……は?」
舞 「雨………降ってるから」
祐一「………へ?」
舞 「傘に……」
ちょっとまった、とりあえず、状況を確認だ。
『入ってく』……何に?……『傘に』 これはOK。
誰が?……『祐一が』……俺がだ これもOK。
なぜに?……『雨降ってるから』 これもOKだ。
以上のことから、『雨が降ってるから、俺が傘に入ってく』と言う事になる。
祐一「え……と、2本あるのかなぁ?」
ふるふると首を横に振る舞。
舞 「2人でこれに入ってく」
祐一「……いいのか?」
舞 「私は……祐一、限りなく嫌いじゃない」
祐一「……そ、そうか」
舞の厚意により、俺は舞の傘に入って下校する事にした。
家(水瀬家)までの道のりの1/3を消化した頃
祐一「……お、もう雨、止んだな」
今さっきまでザァザァと降ってた雨が嘘の様に止みやがった。
舞 「……それじゃ私はここで」
舞は、それじゃ、と片手を上げて帰ろうとしていた。
祐一「ちょっと待った」
舞 「なに?」
祐一「ここまで傘に入れてもらったのに、止んだとたんにサヨウナラは俺が最低な男みたいじゃないか」
舞 「……気にしない」
祐一「俺が気にするんだ。ってな訳で、何かしてほしい事はあるか?
今なら大サービス中で何でもしてやるぞ?」
祐一がそういうと、舞は考え
舞 「………じゃぁ」
祐一「おう!」
舞 「………今度」
祐一「今度?」
舞 「………2人だけで」
祐一「2人だけで?」
舞 「………動物園」
祐一「動物園な。了解だ」
そう言って祐一が微笑むと、舞は少し頬を紅く染め
舞 「……それじゃ」
そう言うと、いつもの様にスタスタと帰ってしまった。
END
家に帰り、さっきした約束が通称『デートの約束』である事に気づいて顔を真っ赤にした祐一が、
その理由をあゆに訊ねられ、照れ隠しにあゆをからかって遊んだのは言うまでもない。
本当に終わり
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