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 いつものように名雪を起こして、パンを付けたイチゴジャム(間違いに有らず)を食べさせて走って学校に行く。

 そんな日々を送っている俺たちは高校3年になった。



 今日も相変わらず名雪を起こし、朝食を食べて学校に向かった。

 ただ、学年が上がる前と違うのは『走って』登校しないこと。

 そんな俺らは桜の花が咲き乱れる通学路をあゆや真琴たちと一緒にゆっくりと歩きながら登校していた。










車、初心者
Written by 旅人










 そんなある日のこと。
 学校から帰ってきた俺らは着替えのために各々の部屋へ。
 いち早く着替えをすませた俺がリビングでくつろいで居ると電話のコール音が響く。

「はい、あ……水瀬ですが」

 未だに「相沢です」と言ってしまいそうになる。
 ………いい加減慣れないと。

 名雪たちも部屋からリビングへ降りてきた。

「はぁ、はい」

 唇に人差し指を当て、静かに、のジェスチャー。
 それを見た真琴やあゆ、名雪は声を小さくして話し始める。

 改めて受話器の方に意識を向ける。

「……で、水瀬秋子さんが車に轢かれまして………」

「っ!?」

「あの、あまり驚かないで欲しいのですが、轢かれたと言いましても当てられた程度なので
 怪我はそれほど酷いものではないかと……」

 ちらりと名雪たちの方を見てみる。
 楽しそうに笑って話してる。

「で、どうすれば……?」

 後ろの3人に聞かれるとパニックになりそうなので、少しボリュームを下げて話す。

「え〜、ご家族の方に来ていただいて確認していただこうと思い連絡したのですが、大丈夫でしょうか?」

「はい」

 再び3人をちらりと見る。

「では、この後……」

 それから、いつ来るとか何時に着きそうとかを話して受話器を置いた。




   ガチャ……

 受話器を置き3人の方に振り返る。

「祐一、どうしたの(よぅ)?」

 名雪よ真琴がハモって聞いてきた。
「ん、ちょっとした知り合いだ。
 今から秋子さんの車借りて出かけてくるな」

 今はまだ名雪たちには話せない。
 話したらあの時みたくパニックになるから。
 あゆなんかはもっと危なそうだ。

「え、お母さんの車、使っちゃうの?」

「ダメだよ祐一くん、秋子さんに聞いてからじゃないと」

「あぁ、大丈夫だ。
 朝に許可してもらったから」

 本当は嘘だが、後で許可してもらうって事でゴメンナサイ。

「じゃ真琴も行く〜!」

 右手を高々と上げてアピール。

「残念だが真琴、それは無理だ」

「な、なんでよぅ!」

 意見をバッサリ却下した俺に食って掛る真琴。

「俺の知り合いのところに行くんだぞ?
 俺は基本的に助手席には人を乗せないし、そうなると真琴は後ろの席で知らない人と一緒に座ることになるけど良いのか?」

「あぅ……やっぱり行かない」

「賢い判断だ」

 今度、行くときは乗せてってやるからな。
 …………許可が出ればだけど。

「でも祐一、お夕飯は……?」

「あぁ、食っててくれて構わないぞ」

「そ、そう………」

 とりあえず会話がなくなったので俺は部屋に戻りジャンパーを着て財布や携帯など必要なものを持ってガレージへ。




   ガラララ……

 シャッターを開けて入ったガレージには新車のまま収めていたかのようなキレイなままの車が1台。
 赤と黒の2色でペイントされていてフロントのライトは四角く、リヤのライトの上には『SKYLINE』と『DOHC TURBO RS』のエンブレムが…。
 まぁ、俺程度の知識ではこの車が北川が言ってた『すかいらいん』という物である、と言うことしか分からないけどな。

「秋子さん、ちょっとばかしお借りいたします」
 車に向かってペコリと頭を下げ、ドアを開けて乗り込む。
 イスに座ると、足から背中にかけてのなんとも良い感じのフィット感。
 教習所で乗った車なんかとは全然違う。
 やっぱり秋子さんの車は乗り心地も最高なのか?

「…っと、そんなことより病院」

 思い出して、早速エンジンをかけることにする。

 まず、サイドブレーキが上がっていてギアがニュートラルなことを確認。
 よし。

 次にブレーキとクラッチを踏みながらエンジンをかける。
 ブレーキと、クラッチを踏み………ふみ………ふ………。

「って、踏めねぇぞこのクラッチ!」

 教習所の車しか乗ったことないけど、こんな固くっていうか重くなかったはず……。
 ためしに右足で踏んでみる。

 ク……
 くそ、踏めない。
 グッ……クク…
 ちょっと動いた。
 けど、まだ繋がっちゃってるだろう。
 グイ……
 ぬ、や、やっと踏み込めた…。

「ぬぅ、ヘタすると右足のブレーキより強い力必要になるぞ」

 結局はそういうこと。

「しかぁし、コレで負ける祐ちゃんではぬゎい!」

 力量さえ分かれば後はそれで踏み込めば良いだけの話。
 よし、ブレーキを踏んで、クラッチを踏ん…でっ、と。
 エンジンスタート。


   ギャギャギャ………ヴォォォォ

 エンジンがかかった。
 ふぅ、ココまでくるのに大変な労力を費やしたような……。

「さて、病院目指して出発」

 ギアを1速に入れて、サイドブレーキを下ろし、教習所で習ったとおりに車を発進させ……

   ……スコン。

 られずにエンスト。

「ぐぁ!き、北川よりエンスト数少なかったのに」

 気を取り直して再びエンジンをかける。

「ぐっ!こ、今度こそ…!」

 再び教習所でやったとおりに発進させ……

   スコン。






 今は車庫の前に居る。
 ゆっくりながら車を発進させられたのはアレから更に数回やってからの事だ。
 とりあえず車を車庫から出し、シャッターを閉めて車に乗り込む。

「いざ鎌倉」

 行き先は病院だが気持ちはそのまんまだ。
 先ほどの車庫だしの時に多少なりともコツをつかんだのでどうにか発進は出来る。

 クソ重いクラッチと、空回りするほど凄い加速力のエンジンのご機嫌をとりつつ病院へ向かった。




   『水瀬 秋子』

 プルプルと痙攣のように震える左足を押さえて、そう名前の書かれたプレートが貼ってある部屋の前で立ち止まる。
 あれから、交差点や一時停止などでエンストすること数十回、どうにか病院の駐車場に車を止めることが出来た。
 ちなみに、ココについて気を抜いた瞬間に左足は凄いイタミとともにつま先立ちするかのように突っ張った状態、
 まぁ、要するに攣ってしまった。

 と、まぁそんなことは置いといて、秋子さんの部屋に挑む。

   コンコン……

 どこぞのキツネ娘とは違うからノックをする。

「はい、よろしいですよ」

 中からは秋子さんのものと思われる声が。
 俺はその声の通りに中へ入る。

「失礼しま……あ、秋子さん!大丈夫なんですか!?」

 ソコにはベッドの上で座っていつもの笑顔であらあらしてる秋子さんが。

「えぇ、事故って言ってもちょっと当てられただけですから」

「で、でもその包帯は…!?」

 秋子さんは腕に包帯を巻き、頬にはガーゼが当ててある。

「当てられただけなんですけど、その拍子に転んじゃいまして。
 運転手の方がココの病院の先生だったみたいだったので、すぐに治療してもらったんです。
 検査も終わりましたし、げんきげんきですよ」

 俺の不安とは裏腹に、にっこりと微笑む秋子さん。

「そ、そうなんですか。
 ぶつけられたって聞いたのでビックリしましたよ」

 未だに立っていた俺はベッドの隣のイスに座る。

「電話したのも多分、運転手の方なんだとおもいます。
 さっき連絡しましたって言ってましたから」

「はぁ、とにかく秋子さんが無事でよかったですよ。
 名雪たちにはまだ言ってませんけど、秋子さんが重態だったりしたら…」

「また名雪が笑えなくなっちゃいますからね」

 秋子さんは、ふふっと笑って返した。


「そういえば祐一さんはどうやってここへ?」

 いつだって唐突だ。

「あ、いや、その……く、車で」

 無断で使用しているのは悪いことなので、どもってしまう。

「車……ガレージの、ですか?」

「はい。
 その、勝手に使ってしまってスミマセン。
 急いで行かなきゃいけないと思って……その……ごめんなさい」

 深々と頭を下げる。

「い、いえいえ、良いんですよ。
 怒ってる訳じゃ有りませんから」

 顔を上げると確かににっこりの秋子さん。

「祐一さん、どうでした?」

「……は?」

 いきなりで、しかも主語がないから何がなんだかさっぱりパリパリ……。

「祐一さん、ガレージに停めてあった赤と黒の車で来たんですよね?」

「はい」

 確かに俺は赤と黒のツートンカラーの車で来た。

「乗ってみてどう思いました?」

 再び聞いてくる秋子さん。
 あぁ、そういうことね。

「えぇと、最初エンジンをかける時、クラッチが重くて踏めなかったですね。
 あと、それのせいもあると思うんですけど、しょっちゅうエンストしてしまって……。
 最後までクラッチの重さには慣れませんでしたけど、最後の方はほとんどエンストなしでこれました」

 けど、コレが何か……?
 そう思って秋子さんを見てみる。

「そうですか。
 うふふ……」

 本当に嬉しそうに微笑んでいる。

「あ、秋子さん……?」

「何でもないですよ。
 ふふふ……」

 珍しく嬉しそうに笑う秋子さんを見て、俺はそのままにしておこうと思った。




 その後、医者からの説明を受け、秋子さんは念のために明日まで入院することになったことを聞いた。
 ちなみに名雪たちに説明のために帰ろうとしたら、秋子さんから「帰っちゃうんですかぁ?」と言われ、帰るに帰れない状態に。
 もちろんオレンヂ色の謎なモノを出されるのが怖い俺は、説明を電話ですることに即決。


 夜は秋子さんの手によって布団の中に引きずり込まれ、俺は抱き枕よろしく抱きしめられたまま一夜を明かした。
 やぁらかい感触はなかなか忘れられそうにないな、って思ったことはヒミツ。




 次の日、秋子さんが退院し、再び車の前へ。

「祐一さん、ちょっとお話良いですか?」

 昨日の左足の痙攣を思い出して、またなるのかなぁ?なんて思っていたときに秋子さんからの声。

「はい。構いませんけど」

「この車はですね、本当は私の主人が乗ってた車なんです」

 秋子さんは少しばかり目線を上げて思い出すように話し始める。

「名雪が生まれるずっと前なんですけどね。
 結婚してからはガレージで眠っていて……。
 結局、今となっては私が時々使う程度になりました」

 すると秋子さんはこちらに視線を移し、ニコリ。

「でも、また乗ってくれる人が出来たみたいですね」

 ……………はぁ?

「本当は名雪にあげようかと思ったんですけど、先に祐一さんが乗るなんて思ってませんでした。
 でも、いいですよね、あなた。
 祐一さんは男の子ですし、機械とかには詳しそうですし」

「え、ちょ、秋子……さん?」

「あなたの車はちゃんと代々受け継がれていますから、安心してくださいね」

 だめだ、秋子さんの中で話が進んでしまってる。

「さ、祐一さん、帰りましょう。
 私達の家へ」

 そういうと秋子さんは軽いステップで、たかたかと助手席の方へ……

「って、秋子さんが運転するんじゃ…?」

「え、私、免許書もってませんよ?
 それに何を言ってるんですか祐一さん。
 このスカイラインは祐一さんのものになったんですから祐一さんが運転しないと」

 いつの間にかこの車、俺のものになってるよママン。

「さ、祐一さん。
 ふぁいと、おーです」

 結局その日は練習と称して色々なところに行くことになった。









 ちなみに、その日から車について詳しくなるために、元から車には詳しかった北川に色々聞いたりしてみることにした。

「相沢っ!あのDR30に乗ってたのって本当にお前なのか!?
 スカイラインだよスカイライン!赤と黒の!くそぉ〜、俺もあーゆーの欲しかったのに!
 相沢、頼む!1回だけで良いから乗せてくれっ、な、な?頼むよぉ。
 この潤ちゃんの一生に一度のたのm(ry」




 こうして俺の車への扉は開かれた。









 END




※※※※※後書き※※※※※

 はいどうも、旅人です。
 車のことなんて全く分からない私が、車のことについて書いちゃいました。
 友達にいろいろとアドバイスを貰いながら。
 車のことについてなんて全く分からない私ですから、多少矛盾があったり「違うんじゃね?」みたいな事が
 あると思うかも知れませんが、ソコはご愛嬌ということで(マテ
 では、他の小説でお会いしましょう。



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