ハロウィン記念小説
Written by 三式様&旅人
in 水瀬家
祐一の部屋の前。
コンコン……
祐一「……入ってます」
部屋の中から聞こえる返事。
名雪「当たり前だよぉ」
カチャリと部屋の戸を開けながら、部屋の主―――相沢祐一―――を批難する。
祐一「何を言う。
実際俺が部屋に入ってるから、真実を言ったまでだぞ」
今日もまた祐一が変なことを言ってくる。
とりあえず唸っておこうか。う〜。
祐一「む、むぅ……で、名雪。何か用が有ったんじゃないのか?」
そうそう、そうだった、祐一に用が有ってここまで来たんだったよ。
名雪「えっとね、祐一、明日って何の日か分かる?」
今日は10月30日。
祐一が何の日かなんて覚えてるわけないと思うけど、一応聞いてみる。
祐一「現首相の誕生日」
名雪「えっ、そうだったの!?」
明日が首相さんの誕生日だった事もびっくりだけど、祐一が即答した事もびっくりだよ〜。
祐一「知るかっ!ってか、お前が聞いたんだろ!」
祐一が私の頬を引っ張りながら怒鳴る。
ちょっぴり恥ずかしいけど、嬉しい。
でも、それ以上に引っ張られるのは痛いから止めてほしいよ。
とりあえず、もう一回唸ってみよう。う〜。
祐一「………で、今日は何の日なんだ?」
頬を引っ張って少し満足げな祐一がさっきの質問に対する答えを聞いてきた。
名雪「あのね、あのね……」
祐一「なにぃ!?そうだったのか!」
私が何の日かを言う前に祐一が驚く。
名雪「う〜、まだ言ってないよ〜」
祐一「そうか、それは残念だ」
祐一、絶対に残念に思ってないよ。
コンコン…ガチャ!
ノックの音がしたかと思うと直ぐに開く扉。
扉の開いた先から弾かれるように飛び込んできたのはキツネ色の髪の毛と、赤いリボン。
真琴「あう〜、祐一ぃ〜!」
ベッドの上で座っている祐一に飛びつく真琴。
祐一「ゲホケホ……真琴っ、ノックして直ぐに入ってきたんじゃ意味がないと何度言ったら分かるんだ!」
真琴「あぅ……う、うるさいのよ祐一は!」
祐一「うるさくない!だいたいお前は、いつもいつも……」
真琴「あ、あぅ……」
祐一の剣幕に真琴が縮こまっちゃってるよ…。
名雪「祐一……」
祐一「ん……あぁ、悪いな名雪。話を続けてくれ」
祐一に抱きつきながら縮こまっちゃってる真琴をそのままにしながら祐一は話を進めるように言う。
名雪「うん、あのね祐一、あした「ハロウィンよぅ!」」
わ、びっくりだよ。
私が説明してる途中で真琴が跳ねるような勢いでしゃべり出したからびっくりしたよ。
きっと、この部屋に来た用事をたった今思い出したんだね。
祐一「はろうぃん?」
真琴「そうよっ!」
祐一「で、何をするんだ?」
真琴「え、えっと……その……あぅ……」
目で真琴が私に助けを請うてくる。
名雪「えっとね、仮装パーティーみたいな事するんだよ」
祐一「パーティーって………どこで?」
名雪「もちろん、ここだよ」
パーティーって言うほど大掛かりじゃないけどね。
祐一「そんなの秋子さんが……いや、秋子さんだから直ぐにオーケー出してくれる訳か」
名雪「うん、だから祐一、何に仮装するか考えといてね」
祐一「考えとけって言ってもなぁ。
仮装か………」
名雪「うん、仮装だよ」
祐一は何か真面目に考えてるみたいだよ。
祐一「なぁ真琴、名雪、俺って何に仮装したら良いとも思う?」
突然、祐一がそう聞いてきた。
真琴「猿!サルよ!祐一は人間より知能が低いサルがお似合いよ!」
真琴が大声でいうと、有無を言わさず両手を拳にして真琴の頭を挟む祐一。
真琴「あ、あううううううっ!!痛いイタイいたい」
真琴の声に涙が混じってくると、祐一は両手を頭から離して解放する。
開放された真琴は、あぅ〜って言いながら、くてっと祐一のほうにもたれ掛かる。
祐一「で、名雪は?」
名雪「う〜んとね、狼……かな?」
祐一「狼か……なんでだ?」
名雪「うん、しばらく前の歌にあったでしょ?『男は狼なの〜よ〜』って」
祐一「………………」
名雪「それでね、祐一も狼なんじゃないかなぁ〜って」
私は祐一の狼なら食べられちゃっても良いよ。
祐一「その歌の通りだとすると、俺が狼かもってのは納得できる。
けど、それだと北川とか斉藤とかも狼になるんだぞ?」
あ、そこまで考えて無かったよ。
祐一「それにな、俺は彼女でもない奴を襲ったりなんかするつもりは無い。
そして今、俺は誰とも付き合ってない。よって俺は狼をするつもりは無い」
う〜、私はいつでも良いんだけどな〜。
祐一「…………何か変な気を感じたが」
う〜、祐一、鈍感だよ〜。
祐一「まぁ、とりあえず俺は人を集める事にする。
名雪と真琴は料理や飾り付けをやってくれ」
名雪「うん、分かったよ」
真琴「ラジャーよ!」
in 美坂家
プルルルル……プルルルル……
私の大好きな恋愛ドラマを見ている最中に電話です。
家にはお姉ちゃんと私しか居なく、お姉ちゃんは2階の自室で勉強中。
電話は親機と子機の両方が1階です。
なので必然的に私が電話に出る事になりました。
美坂「はい、美坂です」
祐一「お、この何ともまな板的な声は栞だな」
栞 「か、開口一番でそんなこと言う祐一さん、嫌いですっ!」
私だって気にしてるんですから。
ミルクたっぷりのバニラアイスを毎日食べてますし、将来はきっと大きくなってくれるんです。
えぇ、絶対に!
祐一「ははは、悪い悪い」
祐一さん、笑い事じゃ無いんですよ………?
栞 「祐一さん、どうしたんですか?
まさか、祐一さんが私に対する気持ちを抑えきれずに愛の告白を!?」
きゃー、です。
出来れば直接会って言って欲しかったですけど、この際なんで電話でもオッケーです。
さ、祐一さん、心の準備はできましたよ。
祐一「栞……」
栞 「……はぃ」
来ました、とうとう私が夢見てた恋人生活の幕開けが始まるのですねっ!
祐一「……あのな」
栞 「…………」
祐一さん、何を今さら恥ずかしがってるんですか。
祐一さんの気持ちは出会ったときから分かっていましたよ。
ささ、遠慮なさらずに告白しちゃってください。
祐一「あの………」
栞 「……………」
祐一「違うんだ」
栞 「はい、お付き合いします………って、はぃ?」
今、何て言いました?
祐一「あの、勘違いしてるところ悪いんだが、その……俺は栞に告白しようとしたわけじゃないんだ」
気まずそうな祐一さんの声。
栞 「あ、あはは…い、嫌ですね祐一さん、わ、分かってますよ。
はい、当然じゃないですか」
祐一「いや、あの……」
栞 「とにかく、なんでもないんですっ!いいですね?」
祐一「あ、あぁ、分かった」
ふぅ、です。
祐一さんが告白してくれないのは残念ですけど、だったら何で電話してきたんでしょう?
栞 「祐一さん、今日はどうして電話してきたんですか?」
祐一「お、そうだ。忘れてた忘れてた」
自分から電話かけておいて忘れないでください。
祐一「栞と香里さ、明日は暇か?」
栞 「明日ですか?
私は祐一さんのためなら、何をしてでも予定空けますけど、お姉ちゃんは分からな「暇よ」」
ごく近くから声が聞こえてきて、受話器を持っている方に顔を向けると、そこには香里の横顔が。
栞 「お、お姉ちゃ……モゴモゴ……」
祐一「お、香里も居るのか」
香里「えぇ、相沢君からの電話を逃すほど最悪な事は無いわ」
祐一「ははは……、じゃ香里は最悪の下限がすごく低いんだな」
なんで、相沢君はこうまで鈍感なのよ……。
祐一「とにかく明日、暇か?」
香里「えぇ、私も栞と同じく、相沢君のためならどんな事をしてでも暇にするわ」
私の暇を作るついでに他の娘(こ)達をつぶしておこうかしら?
そうすれば私と相沢君が…………。
祐一「じゃ、明日は何にか仮装するものもって水瀬家に来てくれるか?」
仮装?水瀬家?
香里「何をするの?」
祐一「あぁ、名雪と真琴の案なんだが、水瀬家で仮装パーティーをすることになった。
まぁ、家が家だからあまり盛大にはならないと思うがな」
香里「そう、分かったわ。
仮装するものを持って水瀬家に行けば良いのね?」
祐一「あぁ」
栞 「じゃ、じゃ、私は以前お姉ちゃんが作ってくれた、龍神様の衣装もって行きます!」
祐一に見えるわけ無いのにピッと手を上げて言う。
香里「し、栞っ!」
祐一「あ……あの、栞、悪いんだが、『えぅ』+『龍神』はシャレにならなくなっちゃうから
違うので着てくれると助かる」
栞 「えぅ〜……残念です〜」
本当に残念そうな栞。
香里「ところで相沢君は何に仮装するの?」
相沢君が何に仮装するか知ってれば、それに合わせて私も仮装できるかもしれないし……。
祐一「俺か?
俺は一応バンパイア、かな?」
バンパイア……それに合う仮装は………。
香里「分かったわ、ありがとう相沢君」
祐一「おぅ、じゃ俺は佐祐理さんとか舞とかに連絡するから」
香里「えぇ、じゃがんばってね」
栞 「が、がんばってくださいね、明日待っててください」
祐一「おう、じゃあな」
プツッ………ツーッ………ツーッ………
切れた。
さて、明日の為の用意しないとダメね。
ふふふ………明日が楽しみね。
―――10月31日、日曜日。水瀬家にて。
何もかもを朱色に染める夕日が深く差し込む頃、俺こと相沢祐一は部屋の飾り付けに奮起していた。
綿毛を天井の端から端まで蜘蛛の巣のごとく配置し、極めつけに小さめの蜘蛛の人形を落ちないように固定する。
昨夜、水瀬家メンバーで作った画用紙の飾りをセロハンテープで壁に貼り付ける。どくろが描いてあったり、
カボチャのお化けが描いてあったり、その種類は様々だ。
そして透明なケースに色とりどりのキャンディなどのお菓子を詰め込む。
―――いい感じになってきた。
お気づきかと思うが、飾り付けは俺一人で行っている。何故だかは知らん。
ただ少し前に名雪たちは作業を中断し、俺に少し手伝ってくれと言ってきた。
文句の一つも言わさず、部屋から消えていった彼女たち。何故か、寂しくなって一生懸命に飾り付けをやっている俺がいた。
外は漸く闇を纏い始めてきて、太陽が月にその役割を明け渡そうとしていた。
「そろそろあいつらがやってくるころかな……」
あいつらとは水瀬家以外のメンバーのことだ。凸凹組みの美坂姉妹に、妙におばさんくさい美汐。
さらに無口な先輩と陽気な先輩のコンビの舞と佐祐理さん。さらには北川。こいつは俺が男一人だと大変だから呼んだのだ。
どんな格好で来るんだろうな?と考えながら、俺は見事にくり抜かれたカボチャを手に取る。
皮が目と口の部分だけ切り取られていて、見事にハロウィンの雰囲気をかもし出している。
秋子さんと俺の合作だ。
なんでも『ジャック・オー・ランタン』とかいう名前ものらしい。よく洋画とかで見かけるあれだ。
秋子さんが指導しながら、俺が中身をスプーンでくり抜いたのだ。さすがに硬かった……おかげで手が痛い。
それをテーブルの上に配置して、終了!
「おおっしゃ! 終わったぜ!」
と叫ぶと同時にリビングのドアが開く。
「ゆういち〜、どこまでいったの……ってもう終わってるよ〜」
「おう名雪。どうだ、この俺のインテリアセンスは。すばらしいだろう」
「うんすごいよ〜」
「ふん、まぁまぁね。ゆーいちにしてみればいいほうじゃないの?」
「すごーい祐一君!」
ぞろぞろとリビングへと入ってくる水瀬家メンバー。それぞれ三者三様のコメントを残してくる。
って、既に着替え終わってるし。
「うわっ、お前ら。俺を差し置いてもう着替えてやがるのかよ」
名雪たちの格好を見ながら言う。
彼女たちは自分の服装を見直して、にへらーと笑う。
「ね、ね、祐一。似合う?」
まず先に感想を求めてきたのは名雪だった。
名雪の服装は何かの動物のデフォルメだった。着ぐるみみたいに頭からかぶっている。
灰色の毛並みに、犬みたいな耳。これは…
「……狼?」
「わわ、なんで分かるの? すごいよ祐一〜」
なんで、って言われてもなぁ…。牙を出している灰色の毛並みの動物なんてそうそういないし。
つーかハロウィンに狼? …まぁ本人が気に入ってるようなのでいいけど。
それに、俺自身がハロウィンのことを良く分かってないし。
そして今度は真琴が突っかかってくる。
「どぉ!? 可愛いでしょっ」
「なんつーか、お前はまんまだな」
ぐぃっと、あゆよりはふくらみのある胸を踏ん反り返しながらよってくる真琴の格好は、まんま狐だった。
黄色いというよりは金に近い色の耳をつけ、手には肉球のついた足が。極めつけは尻尾。
どこからどう見ても狐にしか見えない。
「まんまってどういう意味よぅ。可愛いのか可愛くないのかはっきりしなさいよぅっ」
「といわれても、似合いすぎて逆にコメントが出来ん」
「な、なによそれーっ」
ぶんぶんと腕を振り回しながら騒ぐ真琴は無視して。残ったあゆを見る。
「祐一君……どう、かな?」
戸惑いがちに首を傾げてくるあゆ。
赤いカチューシャはそのままに、耳が長くなっていて、ピカチ○ウの尻尾を黒くしたような尻尾をつけている。
さらに背中にはいつものリュックをしょっているが、例の純白の羽は黒く染まっていた。
…悪魔?
タイヤキを盗む悪魔かっ。
何故か、俺の頭のCPUは暴走を始めた。
「おのれっ。いつもは天使のフリをしてタイヤキを盗んでいたのだなっ? とうとう馬脚を現したか、この悪魔めっ」
「え、えぇーっ!?」
「やはり天使はそのようなことをするはずがなかった! 正体は悪魔だったのだ! 皆の者!出会えー出会えーっ!」
「なんで時代劇風に!?」
逃げようとするあゆをスキップで追いかける。部屋の中だからな。そうそう走るわけにもいかないし。
うふふふー♪って感じで浜辺で追いかけっこをする恋人の如く、らんらんるー。
目標まであとすこしっ。 うっふっふー♪
―――ぴんぽーん。
んなことをしていると、呼び鈴のベルが聴こえてきた。
ぬ、来客か。
いや、来客というわけでもないか。あいつらの誰かだな。
何か後ろで言っているあゆは無視してリビングを抜け、玄関へと向かう。
その際、ケースからお菓子を持っていくことも忘れない。
来訪者は、落ち着き払った態度の後輩―――美汐だった。
「こんばんは、相沢さん」
「おうみっしー、よく来たな」
「みっしーとはなんですか、もっと普通に呼んでください。それに、相沢さんが呼んだのではないですか」
「いやなに、まぁいいじゃないか。おう、ちゃんと仮装もしてくれてきて、うんお兄さんは嬉しいぞ」
冷たいように話す美汐だが、その口調は柔らかい。みっしーと呼んでも何故かお咎めは少ないし。
やはりこういうイベントのときまで堅苦しいのは似合わないというのを分かっているらしい。…いいことだ。
美汐が着て来たのはなんというか魔女スタイルのものだった。
服の基調を黒でまとめていて、その上から黒のローブ的なものを羽織っている。
ほのかに化粧までしていている彼女は、ある視点から見れば美しかったし、あるところから見れば不気味だった。
手に持っていたお菓子を何個か渡して、飾り付けの終了したリビングへと案内させた。
そこからは、来客が雪崩のように訪れた。
まず、北川。
こいつは場の雰囲気を読んでいるのか、それとも敢えてそうしないのか分からないが、いつもどおりの格好で来やがった。
ジーンズに濃い茶のジャケットを羽織るだけという簡単なスタイル。
無論、お菓子など与えなかった。
「おいおい、酷いな」
とは言っていたが、気にした様子も殆ど無かった。あまりお菓子が好きではないとかという理由らしい。
次に、うちのクラスのドン。
美坂さんちの美坂姉妹がやってきた。
「とりっくおあとりーと?、ですっ祐一さん」
「栞、そんな疑問文じゃお菓子なんてもらえないわよ。こんばんは、相沢君」
「おう、よく来たな。うんうん、じゃあそんな君たちにはお菓子をあげよう」
そう言って香里にはキャンディを、栞には前もって買っていたカップのアイスを挙げた。
ま、少々場違いなものでも許されるだろう。
だってほら、栞は嬉しそうにしてるし。
そして改めてその姉妹を見る。
姉の香里は基本的には美汐と同じスタイルで―――とは言ってもプロポーションは全く違うのだが―――魔女系の格好で来た。
違う部分といえば、黒いとんがり帽子と左手に持たれている木の杖だろうか。
栞とは言えば、…なんだろう、これ。
灰色―――どちらかといえば白に近い―――をベースにした服で、頭から変な布みたいなものをかぶっている。
よく見てみれば裾のほうは破けていたりしてボロボロになっている。
……これは、幽霊のつもりか?
いまいち確証はなかったが、満面の笑みでアイスを頬張る彼女に聞いてみたら、よくわかりましたね!と褒められた。
「本当は龍神さまの衣装が良かったんですけど…って祐一さん?」
逃げ出す。
ありがとう香里。君がいなかったら大変なことになっていた。
遅れて10分。
最後に訪れたのは、先輩の2人組み。つまりは舞と佐祐理さんだった。
「…………………トリック・オア・トリート」
「あははーっ、こんばんはです祐一さんっ」
「……メルシー、アドモアゼルお二方」
右腕をLの字に曲げ深く頭を下げる。客人を迎える執事のように。
なぜなら彼女たちの服装は―――ドレスだったから。いやはや、分かっているのか分かっていないのか分からない格好だな……。
佐祐理さんは黒を基調にした比較的動きやすそうなドレス。
一方の舞は、これまた黒いドレス。そして、何故かウサギ耳。…いや、何故?
「……可愛いから」
「……さいですか」
少しだけ顔を赤らめて呟く舞は、めっさくさ可愛かった。
俺も平静を装っていたが、内心はばっくばっくしていた。
一方の佐祐理さんといえば、玄関にコーディネートされた飾りを見て「はぇーっ」っと呟いていた。
どうやらこういったイベントは初めてらしく、しきりに感心していた。
もう呼んだ人は全て来たので、佐祐理さんと舞をリビングへと案内した。そして俺は自室へと戻り、準備していた衣装へと着替える。
俺が用意したのは、オーソドックスだがヴァンパイアの衣装。いや、今日はドラキュラと言った方がいいのか。
黒いスーツをびっしりと決め、真紅のネクタイを締める。その上から黒のロングコートを着込む。そして、完成。
付け八重歯もつけようかと思ったけど、金がなかったからやめた。
いつだって俺の懐は寒い…。
―――その頃。
リビングの方向から楽しそうな笑い声を、遠くの花火のように聞いている一人の女性がいた。
その手にはピンク色の服が握られており、彼女は立ち鏡を目の前にして険しい顔をしていた。
―――どうしましょう……。
手に持った衣装を持ちながらため息を吐いた。
うーうーと唸ってみるけど、心臓の状況は治らない。
―――こんな衣装着て大丈夫かしら……祐一さんに気取ったおばさんだとか思われないかしら…。
最近、お肌の調子も昔より良くなくなってきたし…もうこんなの着れる歳じゃないし……で、でもでもここで差をつけておかないと…うー、でも……。
ばっ、とその衣装を広げる。
出てきたのは、ピンク色のボンテージのような切れ込みの激しい衣装だった。
「いつまでも悩むのは良くないわねっ。これにしましょう」
よしっと自分に渇をいれて秋子は着替え始める。
後ろのベッドには、何十着といった衣装が山積みになっていた。
―――この日の秋子の着替え時間は、自己最高に並んだという。
午後、7時。
手分けして作っていた料理も全て完成し、さぁいざパーティーを始めようとした頃、ドアから秋子さんが姿を現した。
……って!
「あ、あぁ、秋子さぁんっ!?」
「は、はいっ」
「な、なんですか、その格好は!?」
「えーっと……」
「ゆーいちー、どうしたのってわわ、お母さんすごいよ〜」
「あ、秋子さん…」
俺の叫び声を聞いて、殆どの人が秋子さんのもとに集まってきた。そして、みな固まる。
それはそうだろう。それほどまでに秋子さんの衣装は凄まじかった。
ピンクのボンテージ。
その豊満な、やーらかい胸とくびれた腰がものすんごく強調される衣装はすごいと形容するしかなかった。
つーか、やばい。
「うっ……」
ほら、北川なんて鼻血流してるし。
「え、えーっと……秋子、がんばっちゃいましたっ。えへっ☆」
―――もう、笑うしかなかった。
そして、午後8時。
いざこざも全て解消し、秋子さんには俺と同じドラキュラの格好をしてもらって、皆にグラスを配布する。
さぁ、今夜は無礼講。
大いにはしゃぐとよい―――!
「第1回っ。水瀬家仮装パーティーの始まりだぁっ! 乾杯っ!」
「かんぱーいっ!」
THE END
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