懸賞

   ある朝のお話
     Written by 旅人



  ゆさゆさ……

 ……ん

  ゆさゆさゆさ……

 ……んん?

  ゆさゆさゆさゆさ……

 んぁ、何か……揺すられてる。

「し……ま、おき……い」

 呼びかけられてるし……

「し……さま、おきて……い」

 この声は……
 深い闇の中から意識が浮くように戻っていく。

「志貴様、起きてください」

 この声を合図にしたかのようにスッと目を開く。

「ふぁ……おはよう……ひすぃ〜」

 ベッドの横の棚から取った眼鏡をかけながら起こしてくれた翡翠に挨拶を交わす。

「お早う御座います志貴様」

 翡翠はいつもと変わらず深々とお辞儀をしながら挨拶を返してくる。
 翡翠はいつも起こしてくれるよなぁ……

「いつも有難う、翡翠」

 いつもの感謝の意味を込めてお礼を言う。

「い、いえ……あ、ああ、秋葉様がお待ちですので、しょしょしょ食堂までお越し下さい」

 あれ、何でこんなにどもってるんだろう?(←鈍感)

「うん、分かったよ」

 俺の返事を聞くと翡翠はペコリとお辞儀をして静かに部屋を出て行った。



 秋葉が待ってると翡翠が言っていたので、手早く着替えて部屋から降りてきた。

「おはよう、秋葉」

 リビングで優雅にお茶(と言っても紅茶)を飲んでいる秋葉を見つけた。

「おはようございます。随分とお早いですね」

 そうかな?歩いて行っても学校に間に合う時間ではあるけど、そんなに早いって程でも……。

「うん、翡翠が頑張ってくれたからね」

「志貴さ〜ん、朝食の準備が整いましたよぉ〜」

 秋葉と喋っていたら琥珀さんが食堂の方から声をかけて来た。

「じゃ秋葉、ご飯食べてくるから」

 秋葉にそう言って食堂の方に向かう。

「兄さんは皮肉が通じないのですか………ぶつぶつ………」

 ん?何か聞こえてきたような、聞こえて来なかったような……?
 秋葉が何か言ったのかな?
 まぁ良いや。今はご飯ご飯。


「いただきます」

 目の前には朝ごはんとは思えぬ位のご馳走が。
 え〜と、鯛の御頭付きから始まって、うゎ!すっぽんの鍋まで……朝ごはんだよね?

「え〜と、琥珀さん凄いですね」

 朝からこんな料理を出すなんて。

「そうですか?あは〜、志貴さんに褒められちゃいました〜♪」

 琥珀さんは本当に嬉しそうに笑う。

「そういえば志貴さん、翡翠ちゃんに何かしたんですか?」

「え、何で?」

「志貴さんを起こしに行ってから翡翠ちゃんの機嫌が良いままなんですよ〜」

 翡翠の機嫌が……?

「いや、何もしてないけど」

「そうですか?」

 なんででしょう?と首を傾げている琥珀さんの横でパクパクと朝食を平らげる。

「ご馳走様でした」

「はい、お粗末さまでした〜」

「今日も美味しかったですよ」

「はぇ………」

 琥珀さんが時間が止まったかのように固まってしまった。

「琥珀さん?」

「………は、はぇ〜〜!」

 琥珀さんは意識を取り戻すとフラフラ〜っとキッチンの方へ………

「え、えっと……大丈夫……だよな?」

 勝手にそう決めて部屋に戻り出発の準備をする。

「教科書……良し、ノート……良し、ナイフ……良しっと」

 いろいろ有ってからは七夜のナイフが無いとちょっと不安だ。
 ………普通に考えると異常な人だけど。

 カバンを持ってリビングに居る秋葉に声をかける。

「秋葉、俺の準備出来たから行こうか?」

「はい兄さん。今日は走らなくてもすみそうですね」

 そう言いながら俺の隣に来る。

 まぁ、毎日マラソンしながら学校に行く訳にもいかないし……。

 そんな事を考えながら、翡翠に見送られて遠野家の大きな門を潜る。

 その時、少し強い風が吹いて秋葉の髪が志貴の顔へ……。

「うわぁ」

「す、すみません兄さん。
 か、風が悪いのです。風が!」

「うん、別に良いよ。
 それより秋葉の髪って良い匂いだな。さらさらだし……」

「な、なぁぁぁっ……!?」

 そんな事を言いながら志貴と頬を紅く染めた秋葉は学校へ歩いていった。

 ある朝のそんなお話し………。


   END




 屋敷内にて

「ひっすぃちゃ〜ん!私、志貴さんに褒められちゃったのよ!凄いでしょ凄いでしょぉ〜!?(照喜)」

「あの……姉さん、わ、私も……です(紅)」

 なんて会話が有ったのはヒミツ。



   戻る