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 ある日の夜中、俺は大きなバッグを肩にとある決意を胸にしていた。

名雪「うにゅ〜……」

祐一「………」

 俺は……

名雪「にゅ……ゆぅいヒぃ〜……イチゴ…さんでぇ……」

 俺は……こいつの……

真琴「……にくまん……よぉ……」

 俺は……こいつらの……

あゆ「ぐぅ……うぐ……ゆ…い……くん……たい……き」

 俺は……こいつらの……何なんだ。

 俺は自分の部屋から出てリビングへ…………行こうとしたけど、置手紙も有ることだし
 わざわざ引き止められる原因を作らなくても良いかな?

 そう思った俺はソッと外靴を履き、よし!と小さな声で気合を入れると
 外に出るべくドアノブに手をかけた。

???「祐一さん……」

 さぁ出発だ!と思った瞬間、後ろから声が聞こえた。

祐一「……秋子さん」

 どこまで知っているのだろうか。
 計画は前々からしていたが、実際に準備とかをしたのはほんの数分前だ。
 全てを知られている筈は無いと思う……。

秋子「祐一さん、名雪達の事で……ですよね?」

祐一「……はぃ」

秋子「……すみませんでした。私が今まで気付いてあげられなくて……」

祐一「ぃえ、秋子さんのせいじゃないですよ」

秋子「祐一さん……止めはしません。ただ………また戻って来て下さいね?」

祐一「はい、名雪達がもう少し大人になったら」

秋子「有難う御座います。それとこれ、受け取ってください」

 封筒を差し出してくる秋子さんから受け取って、中身を覗いてみると
 諭吉のオジサンがひ〜ふ〜み〜……

祐一「……っ!!」

秋子「前の街に戻るんですよね?水道や電気はまだ通ってると思いますが、
   食材などは無いと思いますから
   それの為のお金だとでも思っていてください」

 はは…敵わないな、秋子さんには。

 どうやら全てが秋子さんにばれているらしぃ。
 そう言う秋子さんにお金を返すのも悪いので、それならばと鞄にしまいこむ。

祐一「ありがとうございました」

 お礼をして秋子さんを見ると寂しそうな、でもちゃんと笑っていてくれた。
 クルリと後ろを向き、ドアを開けると再び秋子さんの方を向き、挨拶をする。

祐一「それでは、行って来ます」

秋子「はい、行ってらっしゃい、祐一さん」

 秋子さんの最後の声を聞くと、パタンと扉を閉じた。



   遠いあの街で
     Written by 旅人




 水瀬家の家の扉を閉じたのが15分前。
 それから俺はカバンを肩に駅まで歩いてきた。

祐一「さて、何時の電車かいな……と」

 一応、皆が寝静まった頃を見計らって出て来たのだが
 最終電車の事も考えておいたから、まだ電車は有る筈。

祐一「……っと、有った」

 こっちに来る前に住んでいた街、朝影市行きの切符を買って指定されたホームへ……。

 出発準備の整った車体の中へ。
 さて、開いている席を探そう……って、時間も時間なだけあって乗客の姿はまばらにしか無い。
 そこに眠っている、顔を真っ赤にした酔っ払いのオヤジと、
 その向こうに居るノートパソコンをいじりながら何かをやっている真面目そうなオヤジと
 ……さすが終電。

 席に着いてしばらく手持ち無沙汰に耽っていると、発車の合図が鳴り
 俺を乗せた電車は静かに神音市を後にした。

祐一「………と言っても、やる事が無いな」

 電車が駅を出発したのが数分前。
 各駅停車のこの電車はさっきから何駅か停まっているが、まだまだ朝影までは随分とある。
 各駅じゃなくて、快速の時間に合わせて出てくれば良かったかな?
 本もポータブルゲームも何も持ってきていないが
 何か退屈凌ぎになるような事を考えてみよう…………



   PiPiPiPiPi………

 ん……音……振動……携帯?

祐一「ふぁ〜……」

 暇つぶしを考えていたらいつの間にか寝てしまっていたようだ。
 とりあえず携帯が鳴っているから取り出してディスプレイを見てみる。
 水瀬家……きっと秋子さんだ。

  ピッ

祐一「はい、俺です」

  『祐一さん私です、秋子です』

祐一「はい、解かってますよ秋子さん」

  『良かったです。祐一さん、今どこら辺ですか?」

祐一「今ですか?今は……あと数駅で朝影市に着きそうですね」

  『そうですか、遅れていないみたいですね』

祐一「はい、寝てたんで秋子さんからの電話で起きました」

  『丁度良かったみたいですね』

祐一「はい、それより俺の携帯番号なんてどうやって調べたんですか?」

  『それはですね、姉さんに連絡したんですよ「祐一さんが今、朝影市に向かいました」って。
   そしたら、祐一の携帯の番号を知っていた方が良いだろう。
   って事になって教えてくれたんです。』

祐一「そうでしたか」

  『はい、アドレスまでちゃんと私の携帯には登録されてますよ。
   ちなみに名雪たちには内緒にしますんで、安心してください。』

祐一「すいません、お願いします。出来れば家を出た事も……」

  『はい、大丈夫です。内緒にしておきますから。
   今度電話をかけるときは私の携帯からかけますんで、登録しててくださいね?』

祐一「はい、すいません」

  『いえいえ、こちらこそ。です」

祐一「それじゃ、もう直ぐ着いちゃいますんで」

  『はい、お休みなさい』

 その後、秋子さんにお休みなさいを言って携帯を切ると、ポケットに仕舞い電車を降りる準備を始めた。

 電車がホームに滑り込む様に停まると、ドアが開き乗客を次々に降ろしていく。
 ……とは言ったものの乗客が数える位しか居ないからぽつりぽつりとしか人が出て来ない。


  朝影市


 数ヶ月前まで俺が住んでいた街。

 自分が住んでいた家までの道のりをゆっくりと、周りを見回しながら歩く。

 あれからあまり変わってないなぁ。……まぁ当然と言やぁ当然だけど。

 駅からまっすぐに伸びる道路。なかなか幅が広いからパレードの時とかに良く使われる。
 道を一本ずれると、アーケードの付いた商店街。
 駅前の道路と平行に出来てて、いろんな店が有るから結構使い勝手が良い。
 今はまだ見ていないが、駅裏には電化製品を売っている店やゲーセンが有るはずだ。

 ほんの数ヶ月ほど前の事なのにとても懐かしく思ってしまう。

祐一「っとぉ、着いた」

 そんな事を考えていたらいつの間にか家に着いていた様だ。
 危なく自分の家の前を素通りする所だった。

 ポケットから鍵を出し、鍵穴に差し込む。
 この家の鍵なんだから鍵穴に合うのは当然なのに、鍵と鍵穴が合う事に喜びと安堵を感じてしまった。
 奥までしっかり差し込んだらゆっくりと捻る。
 カチリと鍵の開く音を確認してドアノブに手を伸ばすと、ドアを開ける。

 家の中からは自分の家の香りが………。
 他人の家のでも水瀬家のでもなく自分の家、相沢家の香り。
 それが、俺は帰ってきたんだなぁと思わせる。
 そして、帰ってきた俺を包み込んでくれているかのようにも思う。

 玄関のドアを開け放ったまま荷物を側に置いて、俺は家に向かってこう言った。

祐一「………ただいま」




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