遊離
作者:紅龍 練斗
「魂が眠らないんだ」
そう言ったのは小学生低学年ほどの女の子
「どういうこと?」
私はそう聞き返した。
私たちは今、チェス盤みないな白黒の床、壁と天井は赤一色で、窓が一つもない部屋に
イスを二つ持って来て、向かい合って座ってるんだ。
「たまに、体はとてつもなく眠いのに精神だけが覚醒し続ける夜があるの」
「幽体離脱も確かそんな感じよね?」
「そう、そして私はそんな夜、死を体験してくる」
「臨死体験?幽体離脱で霊魂だけになるのね。」
「本来なら人は一生に一度、最後に死ぬことができるの」
「言い方にもよるわね」
だって実際は体験した時点で意識はない訳だし………。
「死への強烈な興味と執着が、私をあの場所まで連れて行ってくれる。」
「あの場所?」
天国のコトかな?
「そう……………秋葉原よ」
すっぱぁぁぁぁぁぁぁぁん……!!!!!!
背中に装備しといたハリセンが役立ったわね……。
「ほら、もう帰るわよ……」
そう言って部屋から出ようとした時だった。
「扉がない…………」
そういえば……どうやって入ったのか覚えてないわ………
「無駄よ」
頭に大きなタンコブをつけたまま元のシリアスさで女の子がそう言った。
「無駄って……何が?」
「この『安定空間(ホーミング)』では壁は生物と等しい存在価値(レーゾンデートル)になる」
「安定空間?」
「宇宙の縮小まで安定していることを約束された空間」
「で、どうなの?」
「つまり、変化しないから、一秒後の世界を待つ必要が無いんだ。」
「それで?」
「この部屋の壁・床・天井の面一つ一つが『空間の前借り(プライミング)』を始める。」
「つまり、一つ一つの面が、面積を宇宙が消滅するまでの時間分、増やしていくってこと?」
「そうよ」
気付いた時には遅かった。
既に地平線………床平線まで見える。
もうイスもどこかに行ってしまったみたいだね。
「どうするの?」
そう聞いたときには、もう女の子は居なくなってたんだ―――――――――――――。
「夢か…………」
起きた。
END